女は女である

雑記帳

ベルリン、天使の詩(1987・西ドイツ)

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ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが監督し、後年ハリウッドでニコラスケイジ主演のリメイクもされた本作。

まだドイツがベルリンの壁によって東西に隔てられていたころに撮影された映画。だから舞台はベルリンだけど、この映画に登場するベルリンはもうどこにも存在しない。

 

天使ダミエルが空からベルリンの街を眺めている。天使といっても、金髪で白い服をまとった美しい少年少女じゃない。黒いコートを着た冴えない中年のおじさんたちである。天使は「永遠の霊」として地上に降り、人々に寄り添うのが仕事なのだ。彼らには人々の心の声が、ささやきのように聞こえる。人々の哀しみや怒り、絶望、希望に耳を傾け、時には肩を抱いていたわってやる。子どもは天使の姿が見えるが、大人には見えない。いつも通り街を彷徨っていたある日、ダミエルは空中ブランコ乗りの美しいマリオンに出会い、恋に落ちてしまう・・・というお話。

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 天使が見る世界はモノクロ。穏やかでシンプルだけど、とても単調で味気ない。しだいに主人公ダミエルは永遠につづく天使の生活に疲れを見せはじめ、人間の生活に憧れるようになる。劇中、彼はこう独白する「永劫の時に漂うよりも、自分の重さを感じたい 僕を大地に縛り付ける重さ、重力を」。 ダミエルが人間に変わり、映像がモノクロームから鮮やかなカラーに変わるシーンにははっとさせられる。世界に色がついた瞬間、ベルリンの壁の落書きや町並みは存在感を増し、互いにぶつかり合う。常に人間の営みを観察する第三者だったダミエルが、当事者へと変わり、そのざらざらな世界にひとつの存在としてたちあらわれ、また世界の要素たちとぶつかりあうのだ。さまざまな色が主張し合うことで、世界の粗雑さ、混沌さが明らかになる。でもその混沌さ、コーヒーの暖かさ、ダミエルの傷口から流れる血と感じる痛みのひとつひとつが「生」を強く感じさせる。

 

美しいものをぎゅっと凝縮して詰めたような映画。人々の心のささやき声や天使の独白のひとつひとつのことばが詩のようで。図書館で黙読する人々のささやきが重なり合い、ハーモニーになるシーンは特に圧巻。シンプルなストーリーラインを、詩的なことばとモノクロの映像美が装飾している。

 

少しでも眠いときは観ない方がいいけど、何か美しいものを観て心を落ち着かせたいときにうってつけの映画。とりあえず大好きでしかたがない映画。