女は女である

雑記帳

4ヶ月、3週と2日(2007・ルーマニア)

4months3weeks2days

4ヶ月、3週と2日」(ルーマニア,2007 クリスチャン・ムンギウ監督) 2007年公開のルーマニア映画。ルーマニア映画って、どんなものかピンとこない人も多いかもしれない。

じつは2000年代に入ってからルーマニアは若い才能をつぎつぎに輩出する映画新興国になってきていて、世界各地の映画祭などでも毎年注目を浴びている存在。最近では2013年のベルリン映画祭でもルーマニア映画「Child’s Pose」が最高賞を受賞。社会主義の崩壊時に10代20代だった世代が、その後海外の映画文化の影響を受けて、映画をつくりはじめるころなのかもしれない。

舞台はチャウシェスク大統領による共産主義独裁政権下のルーマニア。1987年という設定で、これはチャウシェスク大統領政権の末期。ルーマニアではかねてから労働力を増やすための人口増進政策が進められていた。10人以上子供を持つと「英雄の母」という称号を与えられるほど。もちろん人口を減らすような離婚や堕胎は固く禁じられている。そんな状況下、ルームメイトのガビツァの違法堕胎手術を助けるために奔走する主人公である大学生オティリア。

この映画、とにかくすごくイヤーな作品。独裁政権下のルーマニアは典型的なディストピアで、劇中に登場する電灯のつかない夜の街や物資不足に困る人々の様子は当時のルーマニアの凄惨さを思わせる。自分の危険を晒してまでガビツァを助けようオティリアに対し、ガビツァ本人はどこまでも自分勝手で無責任だ。ガビツァを助けるために奔走するオティリアが、ガビツァの施術後に恋人の母親の誕生日パーティに参加するシーン。楽しむことが出来ないお祝いムードを壊してしまうオティリアは、彼女の事情を知らない者にはとてつもなく自分勝手に映るだろう。オティリアの事情なんて誰も理解することはできないし、しようとも思わないだろう。そんな様子に「人生ってこんなものだよな」と妙に納得してしまう。他人が、ある人の事情を想像して理解することはできない。自分の事情を説明することはとてつもなく難しいこと。

社会主義政権下で、だれしもが困窮している時代。だれしもが「自分は困っている」と考えることで、自分を守ることを正当化し、他の人には尊大に横柄に自分の主張を押し付けている。悪い環境の中で、人間としての尊厳を保つことはうんとむずかしい。

BGMもなく、映像もひたすら主人公を追うだけ。映る共産主義政権下のルーマニアの町並みは、質素で廃れている。華美さを徹底的に排除したことによって、主人公の緊迫した心情やスリリングな展開が身に迫って感じられる。今まで見たどんなスリラー映画よりもスリリングだったかもしれない。